聴いた事の無い不思議な笛の音色、
ソ〜レソーラーシレレシシーソー、ラ〜シラーソォォミソ〜。

   幻想的な笛の音色は哀愁を帯び、目を閉じその旋律耳を傾けていたら、小柄な美しい小姐が、民族衣装の様なフワッとした綺麗な衣装をまとい、踊る姿が浮かんできた。彭程氏曰く「このメロディーはボクが作ったものだけど、この笛は雲南省の少数民族の伝統楽器。男は求愛の表現にこの笛を使い、女の子はその愛を受け入れる時に踊るんだ」  えっ!?私にも第六感があるのか、はたまた前世は雲南省の笛吹きか・・

   先月号で予告した上海の新進気鋭の音楽家 彭程氏との会談は、不思議な感覚と共に始まった。彭程氏は29才、中国音楽シーンで幅広く活躍中だ。上海生まれの上海育ち。今でもここを拠点に活動している。彼との出会いは04年9月、前号で紹介した私の娘である音源LSIのプロモーションでの打合が最初であり、今回が6度目の会談だ。その彭程氏に「未知なる中国の伝統音楽」について聞いた。..

【松原弘明】 二胡、揚琴、琵琶、笙など、中国の伝統楽器は、日本でもかなりポピュラーになってきています。最近では、二胡を習う若い女性も少なくありません。今日は仕事半分、プライベート半分で、中国の伝統楽器について色々と教えて下さい。
【彭程】 勿論喜んで。二胡を習う人が日本で増えているなんて、何か嬉しいですね。ところで、どんな質問でしょう?
【松原弘明】 今日は、私にとって未知の楽器を紹介して欲しいんです。仕事の関係もあって、良い音のする中国の楽器を新たに探す必要が出てきました。うちの中国人スタッフに調査を依頼しようとしたんだけど、なぜかその時急に彭程さんの顔が浮かびました。(笑) 
現代音楽のみならず、伝統音楽にも造詣の深い彭程さんなら、と期待しているところです。
【彭程】 松原弘明さんのためなら、ひねり出しましょう。(笑)
【松原弘明】 私が音色を聴いた事がある伝統楽器は、以下の12種類です。これ以外でイカしたもの、ありませんか?
【彭程】 (じっと上の絵を凝視して) へぇ〜凄いですねぇ。中国の伝統音楽を奏でるには、ほとんどカバーしてますよ。他にというと…. じゃぁ、コレどうですか? 雲南省の楽器です。雲南省には、結構良い楽器が多いんですよ。


   と言いながら、彼が弾いてくれたのが冒頭の彼の曲。その笛の名は巴烏(bawu1-1声)。同じ竹製でも尺八よりも太くてしっかりした音色で、あえて表現するならば、「巴烏=西洋の木管楽器×2/3+尺八×1/3」といった感じか?

    

   その後、これまた聴いた事の無い魅力的な音色を、次々と繰り出してくれる彭程氏。雲鑼(yunluo2-2声)、磬(qing4声)、編鐘(bianzhong1-1声)と続く。それぞれ音を表現するならば、スチールドラムに深みと余韻を付けた音色、仏壇の鐘を細く高くした音色、複雑な倍音を伴った鐘の音、と言ったところか。これらの楽器どれもが、単独で聴くだけでも、引き込まれていく魅惑的な澄んだ音色を奏でる。そこで新たな、とても贅沢なアイデアが浮かんだ。巴烏によるメロディーを主旋律にして他3つの楽器に伴奏をさせると、一体どれ程凄い音楽になるんだ? 厚かましくも彭程氏にお願いしたところ、何と二つ返事 「OK、稍等一下!」
   続きは次号で。中国民族楽器4つを使った彭程氏の即興、それぞれの楽器の成り立ちに加え、彭程氏の音楽家としての魅力にも迫ってみたいと思います。

楽器名
成り立ち
筆者コメント
巴烏(bawu1-1声)
雲南省で最も有名な楽器。鬼に森の中へさらわれた女がこの笛を吹き、探していた恋人の男が居場所を見つけ助けた、と云う伝説がある。その二人の名前(女:梅烏,男:巴沖)から1文字ずつ取って、巴烏となった。
西洋の木管楽器と尺八を足し合わせた様な音色
雲鑼(yunluo2-2声)
起源は不明であるが、5世紀、南北朝の宋の時代の画に、既に描かれている。
スチールドラムに深みと余韻を付けた音色
磬(qing4声)
130万年前の石器時代、仕事で使う石を磨いて音を出したのが始まり。紀元前2,200年頃にヒスイ製となり楽器として進化。さらに紀元500年頃の南齋時代、現在の真鍮製へ。
仏壇の鐘を細く高くした音色
編鐘(bianzhong1-1声)
ぶら下げた貝殻を木槌で叩き音を出す。紀元前17世紀初-同11世紀の商王朝(殷とも云う)に始まる。

複雑な倍音を伴った鐘の音


   巴烏の音色による彭程氏作曲の“浪漫中国”を主旋律に、他3つの楽器に伴奏をさせたら、一体どれ程の音楽になるんだ? と、贅沢なアイデアが浮かんだ。厚かましくも彭程氏にお願いしたところ、二つ返事で「OK、稍等一下!」 PCに向かう彼の後姿をワクワクして見ていると、たったの5分で以下の曲が完成したのです。


注)copyrightは、彭程氏に帰属します。


   雄大な中国、その壮大な自然をそのまま表現した“浪漫中国”。一足飛びに「癒しモード」に入りアルファー波が溢れ出る。不覚にも人前で涙もにじむ。1分足らずのその曲で、その場にいた3名が思わず拍手と感動の吐息。それを受け止める彭程氏の幸せそうな表情。一生忘れられない経験だ。
   “浪漫中国”の雄大で深みのある、それでいて繊細で美しい様をなんとか上手くお伝えしたいのだが、私には到底文章で表すことは出来そうもない。そこで読者の皆様と感動を分かち合うために、弊社日沖科技(上海)有限公司 のホームページで、彭程氏の他の曲も含め、紹介予定。御期待下さい。http://www.osts.com.cnで7月末に立ち上げ予定です。
  上記サイトに、彼のミュージック・クリップも掲載予定ですが、お聴きの通り彼のスタイルは変幻自在。R&B、アジア的な歌謡曲、日本のフォークソング、ビートルズ、ユーロ・ハードロック、70年代のモータウン・サウンド、インドの民族音楽、クラシックなどなど、様々な要素を感じる。スタイルの無いのが彼のスタイル。それでいて、リズムの核にはブラック・ミュージックがしっかりと腰を据え、メロディーの芯には中国をふんだんに感じる。彼の音楽は、時間と空間が見事に自然に調和している。付け焼刃的音楽によく有りがちな違和感や嫌味は微塵も無く、正に時空を超えた音楽である。
   時空を超越するのは、並大抵の事では無い。しかもわずか29才にして・・・如何にしてその歳で、既にその境地に達し得たのか?
   「自分には解らない。高校生の頃から、ボクは外国の曲を色々と聴き始めたんだ。そのせいかも」 「確かに同年代の人も同じことをしている。何故ボクだけ?えー…何でも受け入れる性格だからかなぁ…」 「理由はそれでだけでは無い筈?う〜ん解らない、本当に解らない」 彼が困り果てる程、いろいろな角度からあらゆる質問を浴びせてみた。でも納得のいく答えが見つからない。天才だから?そうして思考停止させるしか、今のところ策は無い。しかし、いつの日かその秘密の糸口を手繰り寄せてみたい。

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