中国の音 第5回 (a-1声)、(a-2声)、(a-3声)〜(a-4声)!?  
中国人の声は何故デカい?後編
【SuperCityChina 2005年10月号】
   中国人の声は何故デカい? その理由の一つは環境要因。前号で述べたように、周囲がうるさいとそれよりさらに大きい音を出したくなる人間の本能に因るものです。そして第2は言語要因、中国語そのものが声をデカくする、これが今月のテーマとなります。
  中国語学習に際して日本人が初めにぶち当たる壁、それは日本人にとって未知の子音や母音ではなく、四声でしょう。単発での発音あれば、以下を参考にすれば何とかなります。しかし、連音となった場合、中国人に通じる四声を獲得するには大変な努力が必要となります。
【松原弘明式 日本人のための四声自己確認法】
一声 会話を始める時の”えーっ”
二声 聞き返す時の“えっ?” 
三声 嘘でしょ?と疑った時の“エぇ〜っ?”
四声 軽く肯定した時の“えぇ”

   四声は中国語にとって命。ちょっと違っただけで、全く通じません。そこで、1つの仮説が浮かびました。「初めて聴く歌は、ネイティブの中国人でも意味が解らないのでは? だって、歌のメロディに歌詞の四声を合わせるなんて無理だから。歌の四声は乱れていて、それはツラいはず」 簡単な調査で、その仮説は証明されました。スローテンポの中国ポップソングを、若い中国人何人かに聴いてもらったところ、初回での意味把握率は平均50%強。スローテンポでもこの値です。日本語で同様の実験をすると、ほぼ100%でしょう。イントネーションが平坦で、それが狂っても意味の通じる日本語とは、エライ違いです。

    この中国語の命である四声を発声するには、平坦な日本語よりも遥かにストレスがかかるのです。その例を3つ示します。

(1)試しに、ご存知の中国人の方の名前を、日本語読みでは無く中国語読みのまま、日本語の会話の中に挿入してみて下さい。例えば、「例の件は無事完了しました。○○さんに伝えておきました」 ○○の中国人名のところでストレスがかかり、多少声が大きくなるのにお気付きでしょう。逆に、中国語の中に日本の固有名詞を入れても、声量的には何の影響もありません。

(2)次は、囁き(中国語では耳語 eryu3-3)です。親子や恋人同士など親しい者同士が耳元でする囁きはそんなに問題ありませんが、それ以外のシチュエーションでは、日本語と違い、かなり困難さを伴うそうです。声帯を使わない無声音の囁きでは、四声が表現しにくいことがその原因です。このことも、中国語そのものが声を大きくする証左の一つです。

(3)さらに、本テーマのサブタイトルである“(a-1声)、(a-2声)、(a-3声)〜(a-4声)!?”、これは街中で頻繁に耳にする、ケータイで聞き返しているときの中国人の声です。雑踏の環境ノイズに加え、音質の悪いGSM(Global System for Mobile Communications:欧州や中国などで採用されている携帯電話の通信方式)の悪条件が重なると、四声の区別は極めてつきにくくなります。こうして“(a-1声)、(a-2声)、(a-3声)〜(a-4声)!?”の大きな声を、巷でしばしば耳にすることになるのです。

こう述べてくると、なんだ、中国語はデメリットだらけじゃないか、と思われる読者もいらっしゃるかも知れません。いいえ。中国五千年の歴史の叡智の一つ、陰があれば必ず陽もあります。陽の例を下に示します。

例1
1.2秒 ありがとうございます。
0.5秒 
例2
5.2秒 私は明日、日本に出張します。
         7月7日に上海に戻ります。
3.0秒 明天我要去日本出差,
        7月7号回上海。


   中国語の方が圧倒的に短くて済みます。換言すると、単位時間当たりの意味(筆者は“意味レート”と命名)が多くなります。このメリットは、一重に四声によるものです。頭の回転が速くちょっとせっかちな中国人の性格も、おそらくこの四声による意味レートの高さがもたらしたものでしょう。しかし繰り返しますが、意味レートの高さを獲得したお陰で、聞き取りにくさ=エラーレート も高くなり、声量の大きさが必要となったのです。

   ところで、この論理、〜中国語は日本語より短い〜 は一面正しいのではありますが、実は片手落ちなのです。逆のパターンも存在しています。キーワードはコンテキスト、文脈の前後関係です。研究が完了次第、執筆します。

松原弘明プロフィール
福岡県生まれ。大学在学中の80年代始めプロミュージシャンとして福岡で活躍後、沖電気工業株式会社に入社。入社後一貫してサウンド系のLSIの開発に携わる。サウンドLSI商品企画部長の職を経て、2004年2月より上海在住。現在、OKIの半導体マーケティング・設計の中国拠点である日沖科枝(上海)有限公司の董事副総経理。  (先月号で既報の通り、HomePage:http://www.osts.com.cnを立上げ済みです。彭程氏による音楽も、ぜひお聴きになって下さい)
 


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